試用期間終了前の解雇は許されるか




試用期間終了前の解雇

本採用の拒否は、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ」許されますが(試用期間と解雇~本採用されずにクビ!?)、試用期間が満了した時に解雇(本採用の拒否)を行う場合と、試用期間の満了前に解雇(本採用の拒否)を行う場合とで、何か違いはあるのでしょうか。

この点について触れた裁判例として、平成21年9月15日東京高裁判決をみてみたいと思います。

これは、証券会社の営業担当部署の課長として採用された従業員が、6か月の試用期間が満了する前(約3カ月半が経過した段階)で「営業担当としての資質に欠ける」として解雇されたケースでした。

一層高度の合理性と相当性

裁判所は

「採用の際に、会社と従業員との間には、従業員の資質、性格、能力等を把握し従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立した」

と認定した上で、6か月の試用期間の経過を待たずして行われた解雇には,より一層高度の合理性と相当性が求められると述べました。

そして

「合意された試用期間が満了する前に適格性を有しないと判断して解雇をすることは,試用期間を定めた合意に反して会社の側で試用期間を従業員の同意なく短縮するに等しい」

と指摘した上で、合意された試用期間の満了前に解雇するためには、

「試用期間の満了を待つまでもなく従業員の資質、性格、能力等を把握することができ、従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められる必要がある」

と述べ、当該ケースではそのような事情はなく解雇は無効であると判断しています。

試用期間の合意の意味

この判決では、試用期間が会社と従業員間の合意で設定されたものであること、そうである以上これを会社が一方的に破ることは原則として許されないという点が強調されています。

試用期間が、会社に都合よく、また働く人の地位を不安定にさせる形で用いられることがありますが、このような傾向に対して強い警鐘を鳴らしている裁判例だと言えます。

試用期間途中での解雇

もう一つ、試用期間途中に、適性欠如を理由になされた解雇が、解雇すべき時期の選択を誤ったものとして無効とされた裁判例として、東京地裁平成21年10月15日判決を紹介します。

これは、病院の総合事務職として採用された原告が、3カ月間の試用期間とされていたところ、「事務能力の欠如により常勤事務としての適正に欠ける」という理由で残り20日間を残して解雇(本採用拒否)をされたという事案です。

この病院の就業規則では

「試用期間は原則として1カ月、特別の事情がある場合は3カ月とすることができる」

とされていましたが、原告は、パソコンに関する実務経験がなかったことから、3カ月の試用期間とされ、1カ月に1回の面接を受けることになったという事情がありました。

適格性欠如を示す具体例として主張された内容

裁判の中で、原告の適格性の欠如を示す例として会社から主張され認定された原告の事務処理上の不手際やミスをみてみると、
例えば、

・健康診断問診票の記載内容を所見データに入力するにあたって、自覚症状に○がついていないものを○と入力したり、○がついているのに入力しなかった

・受診者の住所入力の際に、丁目・番地・号を入力したあとにエンターキーで確定登録しなかったために、検査結果の通知が返戻されてしまったものが4通あった

・聴力検査の際にヘッドホンを左右逆に装着し計測した

・院外からの電話での問い合わせに対して、企業名や氏名等を聞き間違えたり、相手先の住所や電話番号を聞き忘れるなどして、相手先から苦情が寄せられることがあった、

などが挙げられています。

裁判所の指摘

裁判所は、これらの原告の不手際について、「基本的な事項に関するミス」「入力データ画面の入力欄の記載を注意して見さえすれば間違わないようなミス」「社会人としての一般常識に属することが出来ないことを示す事実」などと厳しく評価した上で

「原告の不手際は、いずれも正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、原告の本件病院における業務遂行能力ないし適格性の判断において相応のマイナス評価を受けるものである」

と指摘しています。

しかし、他方で、裁判所は、

① 1回目の面接において、原告は不手際の点について厳しく指摘され、一定の注意を払うようになったために少なくとも入力についてのミスが指摘されることはなくなり、業務態度等に相当程度の改善がみられたこと

② 2回目の面接において、原告は、いまだ常勤事務職員として求められる水準に達していないことを指摘され、いったんは退職の意向を示したものの、その後の面談の結果、退職せずに引き続き試用期間中は勤務し、その間の勤務状況から、被告が要求する常勤事務職員の水準に達するかどうかを見極めることになったこと、

③ にも関わらず、直属の上司から原告の勤務態度、勤務成績、勤務状況、執務の改善状況、今後の改善見込み等を直接聴取することもなく解雇がなされたこと

などを指摘し、勤務状況等は改善傾向にあり、原告努力如何によっては、残りの試用期間を勤務することによって求められている常勤事務職員の水準に達する可能性もあったなどとしました。

その上で、試用期間満了まで20日間を残した時点において、常勤事務としての適性に欠けると判断して解雇をしたことは、解雇すべき時期の選択を誤ったものであるとして、解雇を無効と結論づけました。

改善可能性

裁判所が指摘しているように、原告の不手際として取り上げられているミスの具体例は、相当基本的かつ場合によっては重大な結果を招くミスで、原告の適性について相当疑義を抱かせるような内容です。

しかし、それでも解雇が無効とされているのは、やはり、実際に試用期間の過程を通じて原告に改善の傾向が一定見られ、被告側も、途中までは原告を退職させることは全く考えていなかったという事情です。

試用期間途中における適性判断のあり方について参考になる裁判例です。

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