無効な解雇について損害賠償請求を認めた裁判例

無効な解雇についての損害賠償請求

不当な解雇の効力を争う、という場合、原則としては職場復帰を求めることになりますが、場合によっては、金銭的な賠償だけを求めるということもあります。

ただし、解雇による損害賠償請求が認められるためには、単に解雇が無効かどうかということだけではなく、損害賠償が認められるだけの違法性があったのかという観点から、一段高いハードルが課されることになります。(詳しくは、こちら→不当な解雇の無効主張と損害賠償請求~解雇は争いたいけれど、職場には戻りたくない!?

では、どのような場合に、損害賠償請求まで認められるのでしょうか。いくつか具体的な事例を見てみたいと思います。

まず取り上げるのは、東京地方裁判所平成22年10月27日判決です。

この事案は、当初、業績不振を理由とする「整理解雇」として解雇が行われながら、訴訟で解雇の効力が争われるようになった段階で、会社が「実は懲戒解雇であった」旨の主張を行うようになったという一風変わった事案です。

これは単なる私の想像ですが、会社は、当初あまりよく考えずに整理解雇をしたものの、訴訟で解雇の効力が争われるようになった段階で整理解雇を有効に行うためのハードルが高いことを知って、これはまずいということで、一生懸命、労働者の問題行動を探し出してきて、これを理由とする懲戒解雇を主張し始めたのかもしれません。

解雇と不法行為責任

裁判所は、会社が当初、具体的な理由を明らかにしないまま「整理解雇」をし、そのあとになって、実は懲戒解雇であったなどと主張することは、「解雇手続きとしての適正を著しく欠く」と厳しく批判した上で、懲戒解雇以外の懲戒処分を検討した形跡もないことも考慮して、懲戒解雇としての効力は認められず、また整理解雇としての効力も認められないと判断しました。

そして、裁判所は、解雇が無効となる場合でも、そのことから直ちに解雇が不法行為になるわけではなく

「解雇がされた経緯、解雇が無効であることを基礎づける事実等を踏まえて、不法行為責任が生じるかどうかを個別具体的に検討すべき」

とした上で、当該ケースでは

①会社が、整理解雇を理由として解雇をしながら、その具体的な根拠を何ら明らかにしてないこと

②訴訟に至って初めて本件解雇が懲戒解雇であったなどと主張しているという事実経緯

に照らして「本件解雇は社会通念上許容されるものではなく、それ自体で不法行為を構成する」としました。

会社の「その場しのぎ」の主張立証がよっぽど裁判官を怒らせたんだなと思えるような批判っぷりです。

なお、これに基づいて実際に認められた損害額ですが、解雇を言い渡された方が退職から2カ月半後に新しい会社を設立していたという事情もあったことから、解雇時点の給与一か月分50万円と慰謝料相当額30万円が認められています。


整理解雇の場合

次に、整理解雇について無効とするだけでなく不法行為として損害賠償請求まで認めた近年の裁判例として、平成18年11月29日東京地裁判決を紹介します。

このケースは、健康保険組合で勤務していた原告が整理解雇を受け、その有効性、違法性が争われた事案です。

整理解雇の無効

裁判所は、整理解雇が有効となるためには、使用者側がまず①人員削減の必要性②解雇回避努力③人選の合理性を立証すべきとしたうえで、本件ではこのいずれについても認められないと判断しました。

裁判所の認定事実によると、原告を整理解雇した翌日に原告の代替要員が採用されているという事情もあって(!)、上記①~③については詳細な検討をするまでもなく否定されています。

解雇の背景には、被告が退職金の減額等を実施しようとするのに対して、これに反対する原告が外部の機関に相談するなどし、これを快く思わなかった被告が整理解雇に名を借りて原告を排除しようとしたという事情があったようです。

特段の精神的苦痛

そして、裁判所は、整理解雇は無効としたうえで、損害賠償請求(慰謝料請求)については、解雇された従業員が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることによって慰謝されるのが通常であるから

「これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実が認められるときに初めて慰謝料請求が認められる」

と述べました。

そして、このケースでは、

① 退職金規定の改定等に反対する原告が外部機関に相談することを快く思わず、整理解雇の要件がないのにも関わらず強行された解雇であること

② 原告が整理解雇当時妊娠しており、そのことを被告も知っていたこと

③ 整理解雇の撤回を求める原告の要求が拒否されたこと

を指摘して、「解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じた」として100万円の慰謝料請求を認めました。

解雇の無効を認めるだけではなく損害賠償請求まで認めた他の事案と同様、解雇の悪質性が甚だしいケースと言えます。


長年勤めた末の整理解雇

最後に、もうひとつ、違法な整理解雇について損害賠償請求が認められた近年の裁判例として、平成19年11月29日東京地方裁判所判決があります。

この事案は、IT分野のマーケットリサーチ業を営む会社(従業員の数が会社代表者の妻を含めて4名しかいないという小さな会社です)で、20年10カ月勤務してきた従業員が整理解雇を受けたという事案です。

整理解雇の直前には賃金を33万円から10万円に減額する(!)旨の通告がなされ、これを受けて会社と原告との間で話し合いが行われている過程で整理解雇の通知がなされました。

整理解雇の妥当性を判断する4つの基準

裁判所は、整理解雇が権利の濫用に当たるかどうかについて

① 人員整理の必要性があったか
② 会社が解雇回避努力を尽くしたといえるか
③ 被解雇者の選定が合理的にされたか
④ 解雇手続きが妥当であったか

の4点から判断するとしたうえで、本件では①は認められるものの、②③④については認められないとしました。

特に④解雇手続きについては、

・会社が当初から整理解雇が適当であるという思いを持って賃金を70%減額するという提案をしたこと

・不正確な会社の業績に基づく説明をしたこと

・10日あまりの交渉の中でも会社の客観的な状況の説明を客観的な資料に基づいて説明しなかったこと、

・本来支払うべき退職金の支払いまで拒絶したこと

が指摘され

「会社が整理解雇を行うにあたって、対象となった原告の理解と納得を得ようとした形跡が認められない」

「その一貫した態度は、対等の契約当事者として整理解雇を行う際の使用者の態度とはかけ離れている」

と厳しく批判されています。

損害賠償

その上で裁判所は、本件整理解雇は不法行為に該当するとして損害賠償請求を認めましたが、具体的な損害額については

① 違法な解雇によって約20年間続いてきた会社からの収入を絶たれたこと

② 年齢からして再就職が困難な状況に置かれたこと

を理由に「退職時の給与の6か月分」を認めました。

原告は慰謝料もあわせて請求していましたが、これについては上記の「退職時の給与の6か月分」の損害賠償が受けられる以上はさらに慰謝料を認めることはできないとして、否定されています。

なお、この事案では、原告が退職後に失業手当の給付を受けていたことから、会社側はその分を損害額から差し引くべきではないかと主張していましたが、これについては「失業手当は、社会政策上の理由から,退職の理由を問わず認められる制度である」として、損害額の評価には影響を与えないと判断されています。

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併せて知っておきたい

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解雇を争うための手続きを考える~労働審判という選択~

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解雇と解雇理由~どんなときに解雇が許されるのか~

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