従業員のミスと会社からの損害賠償請求

会社から従業員に対する損害賠償請求

従業員が何らかの過失で会社に損害を与えたという場合も 当然に会社に対して賠償義務を負うわけではなく、会社は「損害の公平な分担という見地から信義則上相当な限度でのみ賠償請求できる」ということについては、このブログでも何回か書いてきました。(詳しくはこちら→従業員の仕事上のミスを理由とする損害賠償請求

そのような会社からの賠償請求の具体例として、平成23年10月31日京都地裁判決を取り上げたいと思います。

従業員の「義務違反」

この事案は、コンピュータシステムやプログラムの企画設計等を行う会社が、「労働契約上の義務違反によって会社に損害を与えた」として、元従業員に対して損害賠償を求めた事案です。

この元従業員は、会社の大口顧客の一つを担当するチームの責任者兼窓口担当者を務めていました。

会社が、元従業員の「義務違反」として主張したのは例えば以下のような行動です。

① 窓口担当者としての適切なヒアリング業務を行わなかった

② 工数見積もりを作業着前に行うことになっていたのに、作業着手後に行うことがたびたびあったり、不具合対応の修正完了した後の連絡を怠るなど顧客との間の取り決めを守らなかった

③ 1か月あたりこなすべきプログラミング作業のノルマを達成できなかった

賠償請求が許される限界

これに対して、裁判所は、まず一般論として以下のように述べました。

① 労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものである

② 業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものである

③ したがって、使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,労働者の業務の内容,労働条件、勤務態度、加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損害の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、労働者に対し損害の賠償をすることができる。

そして、本件では、元従業員のミスもあって、大口顧客からの改善要求にこたえることができずに受注額が減ったという経緯はあったのものの、

① 元従業員に故意又は重過失があったとは認められないこと

② 原告が損害であると主張する売上減少,ノルマ未達などは,ある程度予想できるところであり、本来的に使用者が負担すべきリスクであると考えられること

③ 原告の主張する損害額(2000万円超の請求が行われました・・・)は、元従業員の受領してきた賃金額に比べてあまりに高額であって、労働者が負担すべきものとは考えがたいこと

からすると、結局、会社が主張するような損害は、「取引関係にある企業同士で通常に有り得るトラブル」であって、それを労働者個人に負担させるべきではないとして、元従業員の損害賠償義務を否定しました。

極めて常識的な判断ですが、従業員が会社からこのような賠償請求をちらつかされて、強い不安を感じているケースというのは枚挙に暇がありません。

単に交渉の際のけん制材料とされるにとどまらず、実際に訴訟上の請求にまで至っているケースをみると、この裁判例でも触れられているような「労働者のミスと損害賠償」に対する正確な理解がきちんとなされる必要を感じます。

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